岩波 明(2011)『心に狂いが生じるとき――精神科医の症例報告』新潮文庫,p. 291.

(私見)平和と戦争の間で揺らぐ時代になった。多くの国で政府債務は膨張し、財政の持続可能性に対する懸念も強まっている。第二次世界大戦後に形成されてきた国際秩序も、以前ほど安定したものではなくなりつつある。こうした大きな変化の多くに、私たち一人ひとりが直接関与しているわけではない。それでも、遠くで生じた政治的・経済的・軍事的な出来事の因果の連鎖に組み込まれ、いつの間にか大きな渦に巻き込まれていく。歴史とは、そうしたことを繰り返しながら進んできたのかもしれない。しかし人間には、見たくないものから目をそらすところがある。まだ自分には関係がないと思い、気づかないふり、知らないふり、関係ないふりをする。そして、それまでの日常を続けようとする。ところが、ある閾値(しきいち)を越えると、それまで遠くにあったはずの出来事が突然、自分の生活の問題になる。そして時には生命や安全そのものにまで及ぶ。大騒ぎになるのは、たいてい、どん詰まりになってからなのだ。自分の意思とは無関係に、巨大な因果関係の中へ投げ込まれる。その不条理は、いたるところにある。